15人が本棚に入れています
本棚に追加
菫はいつもと代わり映えしないパスタを選び、レジに並んだ。ふと、パスタの上にチョコが置かれた。
「これ、お礼っす」
にこにこと、この上なく嬉しそうな表情を浮かべている。
「いやいや、そんなの」
「チョコはストレス軽減するんすよ? 雨の日に最適すよ」
聞く耳を持たなそうなアキラの笑顔に降参して、そっとチョコを鞄にしまった。
僅かな幅しかないコンビニの屋根に身を屈めて、アキラは菫を待っていた。
「ごめんね、お待たせ。傘差しててくれて良かったのに」
「どの傘なのか忘れちゃったから」
「そっか、じゃ、帰ろうか」
菫は赤い傘を手にとって、半分ずつ入るように差し、人目を気にしながらどしゃ降りを歩いた。
アスファルトのほとんどが水溜まりになっている。信号待ちをしていると、突然アキラは傘を抜けてどしゃ降りの雨に飛び出した。電信柱の横でしゃがみこみ、雨に打たれながら振り返った。
「ねえねえ、これ、スミレじゃない?」
アキラが指を差した電信柱の根元に、小さな薄紫色の小さな花が咲いていた。
「それはニワゼキショウだよ? 濡れるから入って」
信号待ちをしている人たちが怪訝の目を向けていた。それでも、雨に打たれながらニワゼキショウを摘んで喜んでいるアキラに、菫は何だか心を暖められた気がした。
最初のコメントを投稿しよう!