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───菫の家にアキラが居ついてからしばらくは、菫は幸せに包まれていた。だがそれはひと夏すらもたなかった。
仕事が終わって家に戻ると、アキラはいなかった。菫から連絡をとっても、アキラが電話やLINEを返すことはない。菫は夜じゅうアキラの帰りを待った。せっかくのお盆休みにどこかに行こうと話していた。今夜はその話の続きをしようと決めていたからだ。結局、アラームが鳴って目を覚ましても、アキラの姿はそこに無かった。
アキラは何日かして、なに食わぬ顔で帰ってきた。
「海行ってて」
たったそれだけを告げて、お腹が空いたと寝っ転がった。悲しかった。アキラと会って初めての悲しい日だった。
悲しい日は徐々に頻度を増していった。
帰ってこない日が何日も続いていく。1.5人分のご飯を作るのが毎日辛かった。食べきれずに棄てられる食材にごめんなさいと謝り続けていた。
「なんで平気で浮気できるの?」
少し肌寒くなってきた秋の日、菫はそう言って泣いた。指の間からキョトンとしたアキラの顔が見えていた。
「ごめん。ごめんね」
そう言ってアキラは菫を優しく包んだ。菫が一番欲しかった、菫を安心させるような言葉は無かった。
悪く言えばずるずると、そんな日々の繰り返しだ。そりゃ、300円でも良いかと迷うのも無理はない。
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