2.小さな未来

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2.小さな未来

 気まぐれに家を離れては、突然帰ってきて、すり寄り、私を抱く。  しん、と心が静まる時もある。それなのに、あいつは隣にいると猫みたいにあったかいのだ。  自分の感想のくせに、あったかいのだ……なんて思ってしまう自分自身に辟易する。  菫は首を振って、想いを振り払うようにパンが入った紙袋を強く握り締めた。紙袋からは香ばしいパンの匂いが夜の町に立ちこめた。  バレンタインの夜に恋を終えるのも一興だ。数多の女の中で、都合の良い女なんて、やっぱりまっぴら。もう、そんな歳じゃない。新たなスタートを切ろう。菫は時に前を向いて、時に下を向いて、家路を歩いた。  空を見上げると、真正面の空にオリオン座が上がっていた。小さな頃に理科で習ってから、オリオン座はその姿をずっと変えない。永遠に変わらない。  子供みたいかもしれないけれど、やっぱりそんな永遠と思える恋に包まれていたいから。  アキラ、このパンを届けて今夜だけゆっくり過ごしたら、さよなら。さよならしようね。
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