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びくっとして固まり、神通さんは戸惑った顔のまま頷いた。どうやら大人しくて優しい性格らしい彼女は、そこまで言われたのを断るというのも苦手らしかった。僕と鈴木くんは気を使って少し離れつつ、耳を研ぎ澄まして二人の会話を聞いていた。不自然に無言になってしまう。神経を研ぎ澄ますと、それまで存在感のなかった風景がくっきりと姿を現した。お寺までの塀で囲まれた道を初夏の風が爽やかに木漏れ日を揺らしていた。
「神通さん、ごめん、驚いたよね。嫌だった?」
意外にも小林くんは神通さんを気遣う一言から始めた。だが、優しく「嫌だった?」と聞かれて肯定できる人はほぼいない。案の定神通さんはふるふると首を振り、
「驚きはしたけど」
と術中にはまっていた。
「そうだよね、ごめん。仲良くなりたかったから」
「えっ。えっと……、どうして私?」
小林くんはその質問には答えなかった。
「どうしてかな」
いやお前の目的は一つだろ、と突っ込みたくなるが、そこは言わないでおいてあげることにした。神通さんは話題を探し、パッと思い出した自己紹介に触れた。
「小林くん、変わった自己紹介してたよね」
「ああ、うん」
なんでもないことのように笑ってみせている。あの妙な自己紹介も、このための餌だったかのように思えて来て、僕は少し背筋が寒くなった。
「変な奴だと思われたかな。俺、ずっと平凡で人数の多い名字だからさ、もっとかっこいい名字になってみたいな?って。神通さんなんて、まさに俺の理想だよ」
神通さんはおかしそうに笑った。小林くんの変なこだわりも、アイスブレイクのトークとしては誰もが馴染めて悪くない効果を生んでいるようだった。
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