名字カースト戦争

2/29
前へ
/29ページ
次へ
 意味がわからず、つい間抜けな声が出る。彼は僕の姿なんか見えていないかのように、両手の拳を握るとググと力を込めて悔しがった。 「これだから……これだから、生まれつき恵まれてるやつは!」  僕の中の危険センサーがにわかに点滅し始めた。もしかして、ハズレな席だっただろうか――  面食らっている僕を置いてきぼりにして、彼はギロリとこちらを睨んでくる。 「白川くん……、俺の去年のあだ名を知っているか?」  あだ名なんて知っていたら、とっくに君のことも知ってるよ、と思うが、返せたのは短い一言だけだった。 「しら、ない」 「二号だ」 「に、号?」 「そうだ」  そう言った横顔は哀愁が漂っていた。 「なぜか分かるか? これはそんなに難しい問題じゃない。ただ、クラスに『小林』が二人いた……それだけのことなんだ」 「はあ」 「それだけで! まるで愛人のようなあだ名になる!」  確かにちょっと可哀想かも、と思いつつも、その勢いに圧倒されて僕は仰け反るしかできなかった。 「いいか……? 今から重要なことを言うから聞いてくれ。名字にはカーストがある」 「か、カーストって、大げさだなあ」  無理やり笑おうとしたらへにゃりとした変な笑顔になった。 「変な風に笑うな、気持ち悪いぞ」  あ。この人、失礼な人だ。僕は少し憮然とした。     
/29ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加