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僕のツッコミに一切動じずに、彼は大真面目な顔できっぱりと言った。
「仲良くなりたいのかと思ったんだ」
そんなわけあるか。
僕の呆れた表情を読み取ったのか、小林くんは大げさに肩をすくめた。
「白川くん……。誰にでも、人に理解されない悩みがあるものだ。その大小を他人が判断してはいけない」
「はあ……」
名言風だが、本当に小さすぎると思うのは僕だけかな。
「君だったら、例えば、背が低いみたいなことだ」
やっぱり失礼な人だった。僕は何も言っていないのに。
「だが、いつまでも悩んでいるだけというのも良くない。それでだ」
彼は今日一番の希望に満ちた顔をした。
「俺の目標は」
そこで先生が入ってくる。ホームルームが始まろうとしていた。みんなが慌てて席に着き、話し続ける雰囲気ではなくなる。ちょっとだけ気になる気がしたが、あくまでちょっとだけだった。僕も前を向き、新しい学期の始まりに備えた。
***
小林くんの目標は、改めて問うまでもなく、十五分後にあっさりと判明した。それは僕だけが知り得たわけではなく、クラスみんなに周知されることとなった。自己紹介という形で。
小林くんは自分の番が来ると静かに立ち上がり、朗々と語った。
「小林です。人生の目標は、名字を変えることです」
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