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第一印象でみんなに引かれていた小林くんだったが、数週間経つと意外にもクラスに溶け込んでいた。彼は容姿も悪くなかったし、ものすごく律儀で、お礼や声かけを欠かさなかった。みんな、(案外、いいやつ?)といとも簡単に気を許してしまった。
「まずは名字の選定だが……」
喋り始めた小林くんがふと遠くに目を留めた。そのままお弁当を持って立ち上がる。
「小林くん?」
僕が顔を上げると、スタスタと歩いて教室の後ろの方で一人で座っていた女子に声をかけた。
「山田さん、お弁当は?」
「あ、小林くん。忘れちゃって」
山田さんは恥ずかしそうに俯いた。なるほどだから一人で座っていたのか。
「これあげるよ」
小林くんはお弁当の蓋を山田さんの机の上に置くと、ひょいひょいといくつかおかずを移した。
「少なくて悪いな、俺が倒れるから」
「そんな、十分だよ、ありがとう」
ぶんぶんと顔をふる山田さんのところに他のメンバーも集まってきて、わらわらとおかずを置いていく。小林くんはその隙にさっと席に戻ってきて、すとんと席に座り直した。
「さて、理想の名字なんだが」
ぱくり、とご飯を口に入れ、もぐもぐと噛みながら思案する。
「理想だけを語っても出会えなければ意味がないので、このクラスにいる女子の名字から検討したいと思う」
忘れているわけではないと思うが、ここは教室だ。近い位置にいる女子には聞こえているんじゃないかと僕はハラハラした。
「まあ、現実的かもな」
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