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そうこうしているうちにサーシャが頼んでくれた飲み物と料理が到着した。予想していたが、やはりウォッカだ。本場でウォッカを飲める機会はそうそうないし、一応にもバーを経営する身として今回のロシアの旅はいいお酒を見付ける目的も少しはある。
食事は、水餃子とボルシチ、羊肉らしいものとあと何の種類か分からない油身の魚、それとキャベツを酢でしめたようなサラダだった。二人ともそれ程食べる方ではないが、どうやらロシア料理を俺に食べさせたくて堪らないらしい。
「どうだい、ロシアの料理は」
「うん、美味しい。餃子なんてあるんだね」
素直に頷くと、サーシャは心底嬉しそうに微笑んだ。
「最近はポン酢なども流行っているのだよ」
日本人は、これ程自国への愛を隠すことなく表すことはない。それが日本の慎ましい性質だが、もてなされている側からすると、その一生懸命さはむずがゆくも嬉しいものだ。
暫くサーシャが料理やウラジオストクの観光名所を説明してくれるのをぼんやりと聞いていると、ひとりの女性が近付いてきた。噂には聞いていたがやはりロシアの女性は皆綺麗だ。その女性はまだ二十代後半だろうか。俺と同じ位の年頃の、真っ直ぐに落ちる長い黒髪がとても美しいひとだった。
随分と酔っているのか何やらサーシャの腕を引いて言っているが、当然何を言っているかは分からない。おおかたナンパだろうが。その男がロシアンマフィアの大ボスだと知らないのだから仕方がないが、恐ろしい事をするものだ。
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