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腰巾着の如くぴたりとくっ付いているだけのチェックインを済ませ、俺たちは四人で出発ロビーの上にある飲食店街に向かった。林さんが暫く日本食が食べられないからと気を利かせて和食レストランを選んでくれたが、独り身の食事なんて適当なものだし、あまり日本食に馴染んでいる実感はなかった。
「あと二時間か。長いですね」
蕎麦をすすりながら、林さんは腕時計に視線を落とした。天羽さんもつられて時計を見て、困ったように微笑んだ。
「何時もはチェックインギリギリに来るのですが、今回は棗がいるもので」
「パスポートは持ってます」
隣で嫌味を溢す俺を驚いたように振り返り、天羽さんは得意の困り顔を浮かべる。そんな天羽さんを初めて目の当たりにした林さんは、驚きに目を見開いた。
「天羽さん、なんて顔するんですか」
林さんは、天羽さんの事を内心恐れていた。誰でもそうだ。鍛え抜かれた大きな身体に日本人離れした鋭利な顔立ち。暗く沈んだ瞳は虚空ばかりを写し、凍った空気を纏い一切の人を寄せ付けない男。四十絡みのその男が歩んできた長い道のりは、凡そ平穏とはかけ離れている事は誰の目にも分かる。
その彼を困らせる事が出来るのは、きっと俺とサーシャだけ。
「可愛いでしょう。親近感湧きました?」
「かわ……ええ、まあ」
林さんはさすがに可愛いとは言えず、語尾を濁して取り繕うように蕎麦をすすった。
食事の後、空港が初めてのユーリンの為に皆で空港内を散策し、いよいよ保安検査所へ。ここでもやれペットボトルだライターだと天羽さんは心配していたが、それ位は俺でも分かる。
心配性の天羽さんを他所に、俺は見送りに来てくれたユーリンと林さんを振り返った。
「ふたりとも良い休暇を」
意気揚々と手を振る俺を、ふたりは控え目に手を振り返しながら見送ってくれた。
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