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保安検査所をなんなく通り抜け、天羽さんにひたすらついて行こうと思って歩いていると、出国審査ゲートまで辿り着くと、彼は左のほうを指差した。
「棗はあの機械の方へ」
何食わぬ顔で頷いて教えられた方へ歩きながら、変な動悸に戸惑った。あまり考えた事がなかったし、勝手にそうだと思い込んでいたが、俺は天羽さんが帰化している訳ではないとその時に初めて知った。
出国は簡単なもので、機械で顔認証をすれば済んだ。けれど俺は初めてだから、わざわざスタンプを押してもらった。ずらりと並ぶ免税店を眺めながら待っていると、俺に遅れる事五分程、天羽さんは少し慌てた様子で駆け寄って来た。
「すみません、お待たせしました」
敬語には突っ込まず、小さく首を振る。
それからサーシャに頼まれていた煙草を買って、俺たちはゲートに向かった。ゲートは電車で一駅分はありそうな程歩いた先にあって、体力のない俺には厳しい道のりだったが、最近新しくできたのか、簡素で清潔で心地は良かった。
その長い道中、俺は隣を歩む天羽さんを仰いだ。
「ユーリン、楽しそうだったね」
「ああ」
彼が生まれ育った中国の寒村がどう言うものかは知らないが、きっと初めて見るものばかりなのだろう。きっとユーリンの事だ、置いて来た家族の事を想ったのではないだろうか。幼い弟や妹に、見せてあげたいなんて。
「ありがとう、彼を受け入れてくれて」
突然天羽さんにそう言われ、俺は嬉しそうなユーリンの顔を思い浮かべた。
「俺の方こそ、助かってる。真面目だし、本当に良い子だし。日本語も少しづつだけど覚えて来ているしね」
そう言えば中国語が話せない林さんとユーリンはどうやって会話しているのだろうか。まあ始まりも言葉がない中だったのだし、今や翻訳アプリも進化しているし、案外その辺りに躓きはないのかもしれない。
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