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二時間半のフライトを終え、人の流れに乗って飛行機を降り、出口辺りで立ち竦む男の顔が余りにもやる気がなくて驚いたが、日本人は少し愛想が良すぎるのかもしれない。
そのまま流れに乗って歩き続け、遂に荷物を受け取る前の入国審査。俺にとっての最大の難所。天羽さんと一緒に行けるのなら良いが、もし別れなければならないのなら大変だ。最悪の事態を想像して震える俺に気付いたのか、天羽さんは困ったように微笑んだ。
「大丈夫、一緒に通れる」
透明な板の向こうには若い男がふたり、俺たちを待っていた。天羽さんに促されるままパスポートを提出し、緊張しながら待つ。時折交わされるロシア語の会話はやはりさっぱり分からず、俺は自分に視線が向くたび愛想笑いで誤魔化した。
天羽さんのお陰で無事にゲートを通過したものの、驚いたのは彼等が通って良いと一言も言っていない事だった。パスポートを突っ返して、それでおしまい。天羽さんは慣れたものだが、これが一人だったら俺は一生パスポートを握り締めたまま彼等のよしを待ってしまうだろう。
そのあまりにも横柄な態度に何となく苛立っていると、天羽さんは入国審査を一人で潜り抜ける術をレクチャーしてくれた。
「ロシアはロシア語しか喋らないひともいるが、基本的にヨーロッパの空港は英語が通じる。コツがあるんだ。最初の言葉だけ聞こえれば簡単だ」
例えばWhenなら帰国日を、How manyならどれくらい滞在するかを、英語が全く出来ないひとはそうやって頭の言葉だけで乗り切る事も可能だと天羽さんは教えてくれた。
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