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入国審査を終えスーツケースを受け取り、時間的には短いとは言え随分と長い時間拘束されていた気分になりながらも漸く空港のロビーに出ると、出迎えの群れの中、頭ひとつ飛び抜けた総白髪の男が年甲斐もなく大はしゃぎで手を振っていた。
「巽、棗!」
心底嬉しそうな顔をしたサーシャはまるで少年のように瞳を輝かせ、歩み寄る天羽さんのおおきな身体を、これまたおおきな腕で抱き締めた。
「久しぶりだろう。どうだ、随分と変わっただろう」
そう問われた天羽さんは、ゆっくりと空港を見渡してから頷いた。
待っている間に調べた所によると、今では三時間で行けるヨーロッパなどと謳われているが、ウラジオストクは旧ソ連時代は軍港で、外国人は元よりロシア人の市外居住者すらも立ち入りが禁止されていた閉鎖地区だったそうだ。
空港自体は小さく、高い天井のしたには数えるほどの土産屋やほんのちょっとしたカフェ。新しい空港なのか、どこもとても綺麗だった。
一頻り天羽さんへの挨拶を終えたサーシャは、漸く傍で不貞腐れる俺を見下ろし微笑んだ。
「ようこそ棗。嬉しいよ、君がこの国に来てくれて」
その言葉には、自国への誇りだけが煌めいて見えた。
「お腹は空いているかい?今から街に出ると丁度七時頃になるから、我慢が出来るなら街で食べよう。いいレストランがあるんだ」
いつになく張り切るサーシャに圧倒されながら、不味いサンドイッチをちゃんと食べた俺たちはそのままサーシャの車に乗って空港を後にすることにした。
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