2.ロシア~ウラジオストク Ⅰ~

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 車内では助手席に座った天羽さんとサーシャが終始ロシア語で会話をしていて、俺は完全に蚊帳の外。サーシャはよく俺と天羽さんは同じくらい大切だと言うけれど、はっきり言って天羽さんもサーシャも俺よりお互いの事を大切に想っているきがしてならない。  終始暗い山道を走っているから車窓からの景色も良いとは言えず、一時間ほどで着くとは言われたが退屈だ。聞き慣れないロシア語を耳に流しながら、俺は気付けば眠り込んでいた。  目が覚めたのは、冷気が頬を掠めた時だった。 「さむ……」  まだ頭がぼんやりとする俺へ、車外からサーシャが厚手のコートを投げ込んだ。 「おはよう。棗のコートだよ、それと帽子も」  確かに天羽さんは荷造りの時冬のロシアに身構える俺へ、日本と同じで良いと言った。そんな訳がないと思ったが、こう言う事だったのか。  手渡されたコートに腕を通し、耳まですっぽりと覆われるおおきめの帽子も被り車外に出ると、天羽さんもまた見た事のないコートと似たような帽子を被っていた。 「さあ行こう。今日は男三人水入らずだ」  相変わらずうきうきとそう言って、サーシャは俺の腰に腕を回す。何だか無性に苛立って、俺は彼が嫌がるであろう問い掛けをした。 「女王様はどうしたの」 「リーナは明日着くよ」  まるで悪びれた様子もなく告げられ、また苛立つ。そもそも妻の名前も初めて聞いた。そんな俺を気遣うように、天羽さんがサーシャを急かしレストランに向かった。  寝起きで温まっていた身体も、レストランまでの道中で直ぐに冷え切ってしまった。北海道で暮らしていた頃は殆ど家から出なかったし、寒さは苦手だ。お陰で初めての海外の街並みを堪能するどころではなく、肩を竦めてサーシャを風除けに縮こまっていた。けれど今日はマイナス十度を下回っていないから、まだ暖かいのだそう。
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