1.旅の始まり

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 最近、盗撮したらしい俺の写真が大量に店に届くのだ。それだけと言えばそうだが、唇のアップや鎖骨、指先や尻など局所的なものが多くて少々気持ちが悪い。いつもなら自分で見付けて処分するのだが、運悪く今日はユーリンが見付けてしまったのだ。  店の送り迎えは日本にいる限り必ず天羽さんが同行しているし、天羽さんが素人の尾行に気付かないとも考え難い。実際写真は全て店内で撮られたものだった。店内であればユーリンもいるし、二人きりになる事もないだろうから、言わずにいた。  何より天羽さんに余計な負担を強いたくなかった。サーシャに報告されでもしたら、それはそれで面倒臭そうだし。 「ストーカーの被害にあっていたなんて、何故言わなかった」 「相手が特定出来ていないんだ。それに────」  店の客に写真を撮られる事は良くあるし、盗撮などいちいち相手にしていてはキリがない。撮りたいだけなら好きに撮って、自慰のお供にでもしてくれれば良い。ロシアンマフィアの愛人で、殺し屋のボディーガードまでいる。挙句不法入国者を匿っているなんて、浮世離れした生活のお陰か、危機感が薄れている事は自覚しているが、あまり大事にはしたくない。 「平気だよ。良くある」 「平気じゃない」  いつもは俺に圧されるばかりなのに、その日の天羽さんは初めて見るような、厳しくも優しい瞳で真っ直ぐに俺を見詰める。 「貴方に何かあったらどうするのですか」 「あ、敬語」 「茶化さないで下さい」  分かっているけれど、やはり俺は危機感が足りないようで。申し訳ないが必死になる天羽さんが面白いやら嬉しいやら、彼が真剣になればなるほど、意地悪したくなってしまう。
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