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「あと八回」
天羽さんは狼狽えながら、あまりにも俺が真っ直ぐに見詰めているからか、忙しなく瞳を彷徨わせている。恥ずかしがり屋め。困ったものだ。
「くちびるじゃなくても良いんだよ」
仕方なく彼の震える指をそっと握り、首筋に押し当てる。
「ほら、ここに」
天羽さんは意を決するように息を吐き、俺の指に導かれるまま首筋にキスを落とした。熱い吐息が素肌に触れ、甘い疼きが湧き上がる。
握ったままの指先を素肌に這わせ導きながら、シャツのボタンを弾く。
「つぎはここ」
鎖骨のうえ。首筋からおりた熱が、そっと触れる。またひとつ、ボタンを弾く。
ゆっくりと下降した指先をシャツの中へ滑り込ませ、薄い胸に導いて、天羽さんの耳元にくちびるを寄せる。
「ここにも」
起ち上がった胸の飾りに触れた瞬間、天羽さんは弾かれるように手を振りほどいた。俺から距離を取ろうと椅子の上で器用に身を引きながら、叱責するように瞳を精一杯尖らせる。
「またそう言う事をして。ダメです」
「はい、プラス一回」
悪戯っぽく微笑んでやれば、漸く天羽さんは緊張していた身体を解いた。
「困ったひとだ」
呆れたようにそう言って、彼は俺の顎を使い込まれた無骨な指先で掬い上げた。
「あと何回ですか」
薄暗いバーの灯りの下、深い闇夜を閉じ込めた瞳が揺れる。いつでもそう。俺はこんなにも簡単に彼の瞳に呑み込まれてしまう。
「貴方の、好きなだけ」
ふ、と微笑んで、天羽さんは彼に似合う優しく清らかなキスをくれた。ただ瞼を閉じてお互いの熱を感じ合い、ゆっくりと溶け合ってゆく。そんなキスを。
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