1.旅の始まり

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「あと八回」  天羽さんは狼狽えながら、あまりにも俺が真っ直ぐに見詰めているからか、忙しなく瞳を彷徨わせている。恥ずかしがり屋め。困ったものだ。 「くちびるじゃなくても良いんだよ」  仕方なく彼の震える指をそっと握り、首筋に押し当てる。 「ほら、ここに」  天羽さんは意を決するように息を吐き、俺の指に導かれるまま首筋にキスを落とした。熱い吐息が素肌に触れ、甘い疼きが湧き上がる。  握ったままの指先を素肌に這わせ導きながら、シャツのボタンを弾く。 「つぎはここ」  鎖骨のうえ。首筋からおりた熱が、そっと触れる。またひとつ、ボタンを弾く。  ゆっくりと下降した指先をシャツの中へ滑り込ませ、薄い胸に導いて、天羽さんの耳元にくちびるを寄せる。 「ここにも」  起ち上がった胸の飾りに触れた瞬間、天羽さんは弾かれるように手を振りほどいた。俺から距離を取ろうと椅子の上で器用に身を引きながら、叱責するように瞳を精一杯尖らせる。 「またそう言う事をして。ダメです」 「はい、プラス一回」  悪戯っぽく微笑んでやれば、漸く天羽さんは緊張していた身体を解いた。 「困ったひとだ」  呆れたようにそう言って、彼は俺の顎を使い込まれた無骨な指先で掬い上げた。 「あと何回ですか」  薄暗いバーの灯りの下、深い闇夜を閉じ込めた瞳が揺れる。いつでもそう。俺はこんなにも簡単に彼の瞳に呑み込まれてしまう。 「貴方の、好きなだけ」  ふ、と微笑んで、天羽さんは彼に似合う優しく清らかなキスをくれた。ただ瞼を閉じてお互いの熱を感じ合い、ゆっくりと溶け合ってゆく。そんなキスを。
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