2.ロシア~ウラジオストク Ⅰ~

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 ぐっと気温も落ち込んだ十二月。今日は待ちに待った出国の日。俺と天羽さん、そして観光がてらユーリンと共に林さんもわざわざ見送りに来てくれた。  空港までは駅からリムジンバスが出ていて、天羽さんは時間とお金はかかるがこっちの方が楽だから、と予約までしてくれた。正直お金も時間も持て余している節がある俺にとって、特に何の問題もないし、電車すら滅多に乗らない俺にしてみれば空港に行くだけで大冒険。頼りになる同伴者がいてくれて本当に運が良い。  バスに揺られ二時間、辿り着いた空港は思ったよりも広く、高い天井を見上げて俺は思わず子供のように口を開いたまま呆然としてしまった。北海道から東京に来て以来だから、飛行機すらも数年ぶり。随分と変わったものだ。それとも、国内線と国際線のターミナルでは少し違うのだろうか。  俺が呑気にそんなことを考えていると、天羽さんは何やら不安気に問い掛けてきた。 「パスポートは落としていないか」 「落としてないよ」 「確認して」 「子供じゃないんだから」  今日だけでその質問も何度目だろうか。昨晩に至っては、ビザはちゃんとパスポートに貼ってあるか随分と念入りに確認させられた。  天羽さんに言わせると、日本人は基本的に隙だらけだから心配らしい。特に俺のような物への執着のない人間は、歩いている人間皆スリだと思うくらい過剰に気を付けるようにとしつこく言われた。それどころか、小銭は持たせるが基本財布は天羽さんが管理するとの事。だがパスポートはそうもいかないから、随分としつこく確認してくるのだ。心配性なのは知っていたけれど、ここまでとは思わなかった。けれど、天羽さんに構われる事は嫌じゃない。嫌じゃないどころか、嬉しくて仕方がない。  小銭と言えば心配なのは現地通貨だ。けれど両替すると言う俺を、彼は慌てて止めた。天羽さんによると、基本的にドル以外は現地で行う方がいいらしい。とは言え俺みたいな英語も出来ない人間は、少し高い手数料を払ってでも空港でした方が安心なのだけど。
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