富田さんが転んだ

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前回のクレームの時、私が電話を掛けて冨田健二さんに配達をお願いしている数時間の間に、もう一人の富田隆志さんが行方不明となった。その後、冨田健二さんは、退職。 健二さんは、富田さんの失踪に何か関係があるのだろうか・・・?城崎さんが、健二さんが警察署から出て来たのを目撃している。 しかし、私の想像はここまでだった。何も分からない。 早く、富田隆志さんが見付かることを願うだけ。 ただ、配送センターで見た富田さんの、あの哀しげな表情は、決して忘れることはないと思う。 春が近付いて、町の東側を流れる広い川沿いの公園では、桜祭りの準備が始まった。毎年、たくさんの観光客が訪れるので、その準備も大掛かりである。川に平行する桜並木の手入れはもとより、遊歩道や駐車場の整備、清掃。また川には、遊覧船や渡し舟が出るので、川沿いも清掃される。 特に、川の所々にある吹き溜まりには、流れ着いたゴミが溜まり、ゆらゆらと浮いている。舟に乗った作業員がモヤのかかった吹き溜まりの一つ一つを回り、溜まったゴミを舟の上に回収していく。 所々、雪が残る川岸。川の水は、まだとても冷たかった。 「うっ、うわぁー!」 一人の作業員が、声を上げた。 「どうした?」 「これ、見ろ!死体だよ!警察!警察!早く、警察呼べ。」 「うわぁー!腐ってる・・・。」     
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