富田さんが転んだ

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私は、倉庫の中に足を踏み入れた。入口のシャッターは全開で、配送の人が慌しく出入りしていた。中はひんやりとしていて、薄暗い。私は、何かに導かれるように、ふらふらと歩いていった。少し奥に進むと急に冷たい風が吹き抜けて、足が止まる。換気扇でも作動しているのだろう。ゴオオオオオォーという音が遠くの方から響いている。見上げると、高い天井の近くの壁に明かり取り用の窓が幾つも並んでいたが、そこから入る明かりはわずかなもののように思えた。天井に証明も点いていて、空中の広い空間で空気がゆらゆらと蠢いているのが見えた。 視線を戻すと、少し先に男性が立っていた。こちらを見ている。 (あれっ、挨拶した方がいいかな・・・。でもなんか、様子が変だな。) 私は、違和感を感じて、その男性から目が離せなかった。というか、私の身体は、私の意志では動かせなかった。 (うわぁー、金縛りだ・・・。もしかして、もしかして・・・富田さんだ。) 突然の事にあせって、何とか動こうともがいたが、どうにも出来ない。 諦めて私は、心の中で叫んだ。 (富田さんでしょ?どこにいるのか教えて!) しかし、その刹那、その男性は跡形もなく消えて居なくなってしまった。 (確かに、見えた。確かに・・・。) 私は、急に恐怖心に襲われ、急いで引き返した。入口で城崎さんが、心配そうに待っていた。 「ずっと、動かないで立ってるから、どうしたのかと思ってたよ。青い顔して大丈夫か?まさか・・・。」 「大丈夫です。私、事務所に挨拶してから、帰りますね。」 動揺を隠しながら、なんとか冷静に答えた。 「ああ、気を付けて帰れよ。」 「はい、城崎さんも気を付けて。店の方にも顔出して下さいね。」 「またな。」 私は、事務所に顔を出した後、早々に家路に付いた。     
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