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「おもしろ、一ノ瀬、それ面白いな」
一ノ瀬は一応まじめに言ったつもりだったらしく、二葉屋を軽く睨んでいた。
「そうだな。そういう時は、どうすればいいか、知ってるか? 一ノ瀬」
俺は笑みをこらえて一ノ瀬の真正面に立つ。
「思ったことがあるなら、言葉にするんだ。詩を書け、一ノ瀬。そして、その美女の前で愛をささやいてこ――」
言い切らないうちに一ノ瀬に肩を殴られた。
「痛いな」
「はっはっは。なーるほど」
二葉屋が俺の横を通り過ぎる。
「三樹は美人に邂逅すると、そういう行動をとるわけか。じゃ、がんばってすめらぎさんにあてた詩を考えろよ三樹」
「……あの人は、関係ないだろ」
「ははっ、“あの人”だってよ」
下駄箱で靴を履き替え、階段を上る。相変わらず、登校する生徒でにぎわう朝の校舎は騒がしかった。
「……で、その街中であった美女は、どんな人なんだ」
からかわれてからまだ少し不機嫌だった一ノ瀬は、俺の問いかけに戸惑うように口ごもった。
「どんなも何も、世界一の美女。お前が想像した世界一の美女が、その人でいい」
「投げやりな言い方だな。その世界一の美女は何してる人なんだよ」
「……知らねー」
「じゃあ、本当に見ただけなのか」
「悪いか。俺は嘘は言ってない」
嘘はついちゃいないが、その程度のことわざわざ話題にして言うことか。
「まあいい。もしその人が世界一の美女なら、俺たちとは別世界の住人だな……。気にするだけ無駄っつうか」
俺がそう、一ノ瀬に向けて言っていると、二葉屋が顔を出し、俺と一ノ瀬の顔を指差した。
「だな」
と言って声を殺して笑う。俺たちの顔が醜いと言いたいらしい。気分が悪いので俺の顔に向いた指を無理やり二葉屋自身の顔にひっくり返してやった。
一ノ瀬は何かをあきらめたようにため息をつく。ちょうど話が途切れて三人同じ教室に着いた。そして俺は学校一の美少女の前の席に腰を下ろすわけだ。
まぁその時点で、俺にとっては世界一も学校一もだいたい似た様なものだった。
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