1-2 日常

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そんなことはともかく、俺が席につくと、すぐさま前の席の石橋という女子が話しかけてくる。そのときすめらぎはまだ登校していないようだった。 「三樹君、悪いけど、席交換してくれない」 石橋は覇気のある声で、自分がそう提案するのは自然の摂理であり当然であると言わんばかりに、明るく自信に満ちた顔をして、そう言った。 「なんで」 「いや、それがさ。宮子ともうちょっと近くなりたいなぁ、って思ってさ。宮子も席が前のほうが黒板見やすいし」 石橋は歯を見せて、気おくれも何も感じさせない笑顔で、席に座ったままの体勢で、短髪を耳にかきあげ爽やかに俺を振り返っていた。 当時の俺は石橋のことをよく知りはしない。 一ヶ月弱クラスメートをやっていたが、授業中でも教師とよくしゃべるムードメーカー的存在だったから、どんな奴かは知っていたが直接しゃべるのはこのときが初めてだったはずだ。 「俺とすめらぎが席を交換するってことか。べつにいいけど、すめらぎはもうそのこと知ってるのか」 「ううん、まだ。登校してきたら言おうかなと」 「ああそう」 別に前後が変わるぐらいどうってことはない、俺はそのときはそう思っていた。 事実を知った今なら、全力で首を横に振る。過去の自分に忠告できるのなら、いや、忠告ではぬるい、恐喝してでも席を変えさせないだろう。 石橋はすめらぎが登校すると、すぐに席替えの話をして、少しばかり強引に席を変えさせる。すめらぎは、石橋が急に俺に席替えを頼んだことを申し訳なく思ったのか、席を交換すると小声で俺に謝った。 「ごめんね、元の席が良かったら言ってね」 果たして学校一の美少女が俺に謝るなんてシチュエーションが、これから先の俺の人生に待ち受けているだろうか。いやない。(反語) 「別にいいよ」 俺は思わず少しも慣れた雰囲気のない愛想笑いを返した。 さて一限目は古文の授業で。 そして、俺はその授業で眠ってしまう。 「…………。(ねむい)」 首を振っても眠気は飛ばない。 気の弱い古文の教師には申し訳ないが。と自分の中で言い訳して、俺は机に突っ伏した。 気付くと、俺は真っ白い空間でボーっとしていた。
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