1-1 回想

2/5
前へ
/263ページ
次へ
事の顛末を話すことは難しい。 誰が、いつ、どこで、何を、なぜ、どのようにしたのか。 こんな説明では何も足りない。 俺が、授業中に、クラスで、居眠りを、眠いから、机にうつぶせになって、したわけだが。 そうすることによって、頭に少女が住み着くようになる、という事象が起こることを説明し切れているはずもない。 もしそんな法則が、現実世界に適用されていようものなら、俺と同じように、学校で居眠りをする全国の善良な学生達が一体どんな破滅的生活を送ることになるだろう。想像に任せようじゃないか。 ――そうだな。 こんな書き出しの小説がある。 「メロスは激怒した」 とても印象的な文だ。この一文だけで、題名が思い浮かぶ。 その物語の顛末はさておくとして、これ以上にないほどにわかりやすい書き出しだと俺は思う。 なぜ主人公は激怒したのか、その説明を始めるところから、物語はスムーズに開始されるわけだ。 さぁ、じゃあ俺の場合は? どうしよう。 残念なことに上手い話し出しなんて思い浮かばない。 それどころか話の中身すら、あやふやだ。 今、目の前に展開されている光景や、それを見ながら思っていること、思い出すこと、原因と予測と推察と、さまざまな物が、説明を試みるうちに思考の表に飛び出してくる。 例えばある事件の顛末を話す場面で、原因の推察を語ってしまいそうになるわけだ。もしそれを話すだけのトークスキルが俺にあれば、ことの理解は深まるかもしれないのだが、俺にはないと言っていいだろう。 まあいい、説明べたと笑いたければ笑え。小学生の作文のように、俺ははじめから1、2、3、4、の順で語ることを心がけよう。技巧的な話をする才能は俺にはないんだ。
/263ページ

最初のコメントを投稿しよう!

18人が本棚に入れています
本棚に追加