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「……むぅ~」
漫画本を顔の前から引き下げ、じとっとした目で俺を見てくる子供がいる。
「さっきからすごーくうるさいですぅ。クレヨンしんちゃん読んでるところなんだよ、ギャーギャー騒がないでください」
ぷすー、と息をつき、むくれた顔で、恨めしげな瞳を俺に向ける。
その子供は俺を煩わしがるように、ソファの上で寝返りをうった。
子供を喜ばせるためだけに作られた飴玉みたいに、ごろごろという擬音が似合いそうなほど大きく丸い眼、原色に近すぎる青色のきらきらした作り物のような瞳。腰まで伸びた長い金髪を揺らし、サイズの大きすぎる白のワンピースを着たその少女は俺にそう言うと、また漫画を読み始める。
俺のことより、あの日本一有名な五歳児の方が気にかかるようだ。ソファに寝転がり、ポテチを食べ、腹が立つぐらい無邪気にきゃはきゃは笑いながらさらに寝返りをうった。
「……なぁ、そのソファとポテチと漫画どこから持ってきたんだ」
俺が問いかけると、少女は口を膨らませた。外見年齢は8才に満たないだろう。
「むぅ、どこだっていいじゃないですかぁ」
「……よくない」
「どうせ説明したって、みー君には分かりませんよー」
みー君というのは俺のことだ。俺はあまりその呼び方で呼ばれたくはない。
「……言ってみないとわからないだろ、とにかくなんでそんな物がここに用意できるのか言えよ」
「言えよっ、なんて怖い言い方されたら、ムゥ、泣きますよぉっ」
ムゥ、というのは呻き声ではなく、この少女の名前だ。
名付け親は誰だ。顔を見せろ。
「……泣くとか言って俺をおどすな、とにかく説明しろ」
「むぅ~、仕方ないですねぇ。これはですねぇ。ムゥのまーべらすぱわーでここに出現させたの。あちこちから情報を引っ張ってきて、ここにぼわんとおきました。すごい? えへ、ねぇ、すごい?」
ムゥはソファに寝転んだまま、大手を振って、自慢しているようだ。長い袖がぱたぱた上下に振り回されている。袖に表情があれば、さぞ迷惑気に顔をしかめていただろう。なに、この例えは俺の気分の投影に他ならない。俺は袖にだって同情したい気分だった。
言っておくが、“まーべらすぱわー”では何の説明にもなってない。
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