1-2 日常

2/6
前へ
/263ページ
次へ
“その”前日、水曜日。新学期早々の席替えで俺は廊下沿いの列の後ろから二番目の席になった。 春のこの時期に廊下側というのは涼しくてなかなかいい場所だった。しかも後方の席で目立ちにくいというのがさらにいい。俺はのんきにそんなことを思いながらのんきな気分で授業を受けていたはずだ。 そう、その席替えで、ひとつばかり驚くべきことがあった。 加えてそれは、俺の運命を左右するほどに重要な出来事だったということを忘れてはいけない。 俺の後ろの席に、すめらぎ宮子という“学内でも評判の美少女”が座ることになった。大事なことなので二度言うが、“学内でも評判の美少女”だ。 気にならないわけがない。 俺がちょっと振り返ると、 「よろしく」 といって彼女は少し恥ずかしそうに笑った。 肩までまっすぐ伸びた黒髪、目は少しだけつりあがった猫目だが、優しげでほんわかとした穏やかな雰囲気がある。気品がありながらかつ純朴そうなところが天然記念物並みに希少価値が高い。レッドリストに彼女の名前が載っていても俺は驚かない自信がある。 「よろしく、俺がでかくて黒板の邪魔だったら言ってくれ」 成長期は過ぎたはずだが、未だに俺の身長は伸び、必要もないのに筋肉がついてがたいばかりよくなる。バスケかバレー部辺りに入っていたら重宝されたかもしれない。でも俺は骨の髄から帰宅部だった。そういう風に生まれついている。 そしてその邪魔な図体が、学内で評判の美人の邪魔になるとあっては、俺は頭を削るしかなかった。 「ううん、大丈夫。見えるから」 すめらぎは申し訳なさそうに手を振った。にこっとはにかむ顔は愛嬌があってかわいい。ちやほやされるのも納得だ。 一言二言、交わしただけだが、俺には相当な意義があった。 言葉でわかってもらえるかどうか不安だから繰り返しておこうか。学校一の美少女が俺に微笑んだ。この意義深さがどれほど伝わるだろうか。
/263ページ

最初のコメントを投稿しよう!

18人が本棚に入れています
本棚に追加