1-2 日常

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「そういえば三樹」 二葉屋が後ろから声をかけてきた。 「すめらぎさんがお前の後ろの席にいるんだよな」 「……ああ」 だから? と言う意味をできる限り強調するように、後ろを振り返る。 「お前さ、すめらぎさんの邪魔だろ」 少しも笑うことなく二葉屋は俺の背丈を値踏みするように視線を動かす。 「確かにそうだな、今からでも家に帰って学校を休めよ、学校へくるな」 一ノ瀬が少しも俺を見ないまま言った。 つめたく聞こえる言葉だが、いつものことだから俺は泣いたりはしない。 「分かった寝てればいいんだろ、すめらぎさんの邪魔にならないようにな。ずっと突っ伏しててやるよ」 「別に俺たちはお前が寝てても少しもうれしくないんだけど」 二葉屋は小ばかにしたように笑った。 「うん、すめらぎさんのために寝ろ、いびきを立てないように息を止めろ」 俺の言葉を立て続けに突っ込む二人のやり口には完全に慣れきっている。腹は立つが本気にしたほうが負けなのは目に見えていた。 「わかったわかった。遺書書いて屋上から飛び降りてくる」 俺がそう言うと一之瀬と二葉屋は満足したようだった。 「……そんなことより三樹」 一ノ瀬が俺の顔を覗き込んだ。 「お前、今まで見た最高の美人って誰だ」 突拍子もない質問に、俺は一瞬リアクションをとることを忘れてしまった。 「……母親」 「冗談だよな」 「冗談だ」 どうして一ノ瀬はいきなり美人について俺に聞きたくなったんだろうか。大方、一ノ瀬が美人について何か話したいことがあるからに違いないが、俺たちの生活で最高の美人の話題が俎上にあがることなんてまずない。最高の美人なんて目の前に現れたりしないからだ。夢物語だ。 一ノ瀬は夢でもみたくなったのだろうか、と俺は思った。 「何かつらいことでもあったのか」 「……いいや、いいことだ。俺は昨日街で美女を見た。それだけだ。俺はその人が人類史上最高の美女だと思った」 そんな話をされても反応に困るな。 「ふっはっはっは」 二葉屋は高い声で笑った。
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