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「何が言いたいんだ」 少年は私を睨む。 「あなたが嘘をついた理由だよ。私にはわからない……でも、昨日の話を持ってくるとすれば、あなたが嘘をつくのは『彼女』のためなんでしょ?」 「それは作り話だ。僕は嘘をつく動機はないよ。」 「じゃあ、その『作り話だ』って言うのが嘘なんじゃない?」 「僕が嘘を重ねて何になるんだ?」 「だから、『彼女のため』になるんじゃないの?」 「………堂々巡りだ、やめよう。あぁ、なんだ。頭がいいやつがいたのか。僕はさんざん皆を困らせておいて、大事に至る寸前で自白しようと思っていたのに。その瞬間に勝ち誇った顔をしてさ、『嘘だよ』って言うんだ。それを楽しみにしていたのに」 少年は家から出ていって、なにか話し合っている村人達の所へ行った。私もついて行った。 「ごめんなさい……嘘をついたんだ」 村人達は一瞬も起こる素振りを見せなかった。そうか、良かったじゃないか、本物の盗人じゃなくて、と少年の肩を叩いた。少年は恥ずかしそうにしていた。 その次の日も、私は少年の家を訪ねていた。 「おはよう」 「あ……おはよう。昨日は……ごめん」 少年は反省しているようだった。 「その言葉が嘘にならないことを願うよ」 私はすっかり少年を信じられなくなっていたが、なぜかまた2人で話そうと思ってやって来たのだった。 「また今度、ジャム持ってきてよ。君のところのジャム美味しかったよ」 少年は笑う。私は、彼になら騙されてもいいかもしれないと思った。 「もちろん」 私も笑顔を見せた。
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