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川のサラサラした流れを表したかったので、敢えて中低音で伴奏をつけている。
二音の和音、そしてもう少し音の高いところで、元の和音を展開して軽い音を。沖島がそこを弾くと、トプン、トプン、と流れの緩やかな場所の水音が聞こえた。
軽やかな16分音符が鍵盤を駆け上がり、三連符で煌めきながら降りてくる。音を変えながら繰り返すメロディー。
「ははっ」
沖島は楽しそうに笑った。
4度の幅を保ちながら川が歌う。高いところで小さな休符を挟み、音が弾む。
「ここ、魚がいる」
沖島の言葉に、西野は目を大きくした。まさにそうイメージした。
2ページ分はあっという間に弾き終わり、沖島は残念そうに溜め息を洩らす。
「早く続きが弾きてー」
そして西野を振り返ると、彼は感動に打ち震えていた。パッと口元を押さえ、声の震えを抑える。
「……それ作った俺、天才だ」
その瞬間、思わず沖島は噴き出した。
「なんやお前、ウケるっちゃけど」
「はあ?」
表情が一転して不愉快に。沖島はそんな彼にニカッと笑って親指を立てた。
「ホント、天才たい!」
「……?」
『天才』という言葉で褒められているのは分かったが、不機嫌な顔をそのままに、西野は首を傾げた。沖島は「あ」と口を手で塞ぐ。そして恐る恐る西野を見た。
「あなたは天才ですね」
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