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F音大、新入生歓迎会。
四年生の大先輩が弾いてくれたのは、リストの「ラ・カンパネラ」。鐘を意味するイタリア語だ。
(アレが『鐘』だと? いい加減にしろ)
小さい頃から絶対音感に悩まされてきた西野の耳は、小さな雑音まで一つの独立した音として捉えてしまう。
彼は都会が大嫌いだ。
ごちゃ混ぜになった音の海で耳鳴りがし、最後には道にしゃがみ込み、両耳を塞いで悶える。そんな我が子を心配した両親が原因に気づいたのは中学生の頃。それで田舎に住んでいる母方の祖父母のもとで生活するようになっていた。
そんな彼がこうして都会の音大にやってきたのは、ある目的があった。
「お前、専攻何?」
西野の答えに口の端を引きつらせた男子学生が尋ねる。
「そんな風に言えるってことは、ピアノが相当上手いか、関係ない学科だろ」
彼の質問に、西野の眉を端がピクリと上がる。細長い腕を組み、踏ん反り返って極悪な笑みを浮かべた。
「音の良し悪しが分からない奴に、言う必要ない」
「……なんだと?」
「お前はあの演奏が素晴らしいと思ったんだろ」
「じゃあ、どこが悪かったか言ってみろよ!」
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