西野啓二

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通路の真ん中で立ち止まり、大声で喚く男子生徒と、相変わらず上から目線の西野。 周りの生徒たちが何事かと足を止めて注目する。流れを遮る邪魔な二人と成り行きを見守る生徒のために、道は塞がれて渋滞してしまった。 「あんなスピードだけの演奏、全然曲の良さが出てない。お陰で指が回ってなかった。音の粒も揃ってなかった。それならゆっくり丁寧に弾いてくれた方がマシだった。雰囲気だけ押し付けられてよく満足だな。最後の方なんて雑音だらけだったじゃないか。リストに失礼だ」 「お前な……」 胸ぐらを掴まれた西野は顔を歪ませた。それでも怯むことなく相手を睨みつける。 「そこまでにしなさい」 詰まった生徒の間を縫ってやってきた、背広の教師。細身だが定年間際の貫禄のある男。分厚いメガネの向こうの大きな目が、二人をジロリと見ていた。 「久川先生」 サッと西野の表情が抜け落ちる。相手の手を振り払って、掴まれていた胸ぐらを整えた。 「すみませんでした」 急に大人しくなって頭を下げた西野に、相手の学生も慌てて倣う。 「先生の前では良い子ぶりやがって」 ボソリ、と彼が呟いた言葉はノイズのように耳障りだった。 「ま、君の言うとおりだけどね」 お咎めを受けると覚悟していたが、降ってきた言葉は穏やかだった。 西野が顔を上げると、彼はふふ、と笑って背を向けた。 紅潮した頬が緩む。 西野が尊敬する作曲家。彼の指導を仰ぐために、ここにやってきたのだ。
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