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セレベス海沖 幽霊中隊
船は嫌いだ。
タリムは高波に揺さぶられる60m級哨戒艦『トリスラ』の甲板で手すりにしがみつきながら思った。元陸軍のタリムには、インドネシア沿岸警備隊の仕事は別の意味で過酷だった。仕事中は四六時中船に揺られるというのは、いかにも落ち着かない。
おまけに今日は高波だ。『トリスラ』は沿岸警備隊の保有する船舶の中では大きな方だが、それでも胃が持ち上がるような不快感があった。
インドネシアの沿岸線は長大だ。島峡の多いインドネシアで密輸や密漁を取り締まる――筈だったが、この悪天候では50m先の視界さえ明瞭では無い。
タリムは舌打ちして、ブリッジに戻った。水色の制服が蒼になるまで濡れて不快だった。
「軍曹殿、職務の方はいかがですかな?」
ブリッジで機器を弄っていた男が、馬鹿にしたようにタリムに言った。小柄だがパワフルな肉体のタリムとは違い、この男は長身で、ノートパソコンより重いものを持ったことが無いというように貧相な体つきだった。職務中だというのに、煙草を咥えている。
「黙れイルワン。少しは真面目に仕事をしたらどうだ」
イルワンと言われた男は鼻で笑った。
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