第2章 劣等生

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望長が間に入り、勢いよくパンパンと叩いてきたのだ。 「まあ、今までのことは今までとして割り切って、これからのことを考えようよ。俺、付き合うしさ」  笑顔が胡散臭いだけに、台詞も軽々しく響くが、葵は感動してうんうんと何度も頷いた。 小早川にあれほど優秀だと言われた乗り手なのだ、望長はたとえパートナーと別れても引く手あまったのだろう。葵と紅鏡とはまるで立場が違う。紅鏡はそれ以上の選択肢もないので、悔しいながらも頷いて見せる。そうすると、少し吹き出したように、望長はまた笑って、それからポケットから取り出したものをそれぞれ二人に渡した。 「エネルギーバー。まあ、それ食べて午後は乗り切ったらいいよ。放課後、演習場に着替えて集合ね。来なかったら迎えに行くから」  それじゃあねと背を向ける背中が、広い。 「カッコイイよね、望長さんて」  さっそくエネルギーバーを食べている葵は、その背中を見ながらぽそっと呟いた。 「去年の東西戦で、賞を取ったらしいよ。竜使いのトーナメント、プロにも勝ったことがあるって聞いたし……俺たちみたいな悩みとは無縁なんだろうな。それなのに、付き合ってくれるなんて、ほんと優しいよなあ」 「パートナーがいないんだろ? 一年も組んだ歌い手と別れるなんて、あいつにもなんか問題あるんだろ」  やっかみ半分で口にすると、葵はふと驚いた視線を紅鏡に向けた。 「オルフェウスくんはさ、そんなに見た目かっこいいのに、性格残念なんだね。成績も残念みたいだけど」 「ほっとけよ」  エネルギーバーをポケットに突っこんで、チャイムが急き立てる教室に足を向ける。ふと呼ばれたような気がして、廊下に面した窓から外を見上げた。ドームの中に組まれているため、空は見えない。コロニーなので空も人工投影されているに過ぎないが、今はこの気持ちを紛らわすためにも必要なものがあった。 「橙に会いたいな」  それが決して叶わないことだとしても、つい呟いていた。下を向いて歩くと、せかせかと動く足が目に入った。
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