竜と少年と

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ひげをそよがせて、これを掴めと言う。 「本当に、救うことができる?」 『ああ、勿論だとも愛しい我が竜使い』  恐る恐る橙の身体に近づいて、その首に乗っかろうとすると、尻の下をぐいと押し上げられた。浅黄が鼻先で助けてくれたのだ。少し震えながらも、ふかふかの鬣に顔を埋める様に乗っかり、顔を髭を掴みながら顔を上げると、耳の向こう側から音がした。悲しくも、切ない声だ。グミ・エラトの声であるはずなのに、ずっと、物悲しかった。 『さあ、行こう。我らの力を使い、必ず救いに行こう。この悲しい声を出す、愛しい子に会いに』  びゅうと風が吹いて全身が包まれたと思ったら体が浮いて、すぐにふわふわのたてがみが全身を風から守る様にそよいだ。ゆっくりと橙の身体は空に舞い上がり、そしてゆっくりと方向転換した。髭を強く掴むと明朗な声が紅鏡の背中を押す様に笑った。  それから、全身が七色の風と、歌と、美しい光の粒の中に浸かる様に包まれていった。優しい感触のする橙の髭をぎゅっと、強く握った。
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