第2章 劣等生

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顔をじっと見ると、にこにこと笑顔を返される。その表情が実に胡散臭い。眼鏡のフレームが細いため印象をより曖昧にさせている。眼鏡の向こう側の黒い瞳は虹彩が複雑な色合いで、一見して黒というよりグレーにも見える。制服を見る限り、胸に乗り手科の紋章と学年を示す胸章が入っているので一つ上の学年代表らしかった。見覚えがあるはずだったが、思い出せない。 「君が、乗り手科一年の紅鏡・ティーダ・オルフェウス君?」  声は、とても耳心地が良いなと、紅鏡が視線をあげると、笑顔を顔に張り付けたまま男は手を差し伸べてきた。 「俺の名前は、望長月(ユエ)牙(ヤー)」  伸ばしてもいないのに掴まれる様にして握手させられる。大きな手は乗り手らしく節くれだって指の間隔が広い。身体ががっしりしているし、胸の章が乗り手科である証拠の羽の形をしていた。 「ユエヤー? チャイニーズ系?」 「みんなは苗字を呼ぶよ、ご明察通りチャイニーズ系。君は、天下のオルフェウス家のご子息なのに金髪碧眼なんて派手な見た目をしているからびっくりした。まあ、今日から君の指導役に入ったからよろしく」  家のことを言われて一気に不機嫌になった紅鏡に、望長はにこにこ笑顔で応じる。その胡散臭さに馬鹿らしくなって視界を外した。 「何の用?」  胡散臭さ全開の地味男は、書類を差し出す。手に取ってざっと表に記載されている内容を読んで紅鏡は顔を歪めた。それは、ペアリング早見表と呼ばれるようなものだ。竜使いは一人ではない、二人で一組として竜を繰り活動する。竜に乗る乗り手と、竜を繰る歌い手。この二人が組んで初めて竜使いと呼ばれる。そして、この学校のそれぞれの科に入って一日目で乗り手科と歌い手科の適性審査が行われてペアリングが発表される。  紅鏡は、そのペアリング発表に名前が乗っていなかった。適性が無さ過ぎて、合わせる者が居なかったと担任に言われた。 「そこ、君も名前載ってなかったんだろ? 実技テストはほとんど自分のパートナーと受けるのに、そのパートナーがで居ませんじゃ、話にならないよね。もうこの時点で落第候補って言っていい」  落第の言葉に、喉が鳴る。だからお前は、竜使いになれるわけがないのだと、脳内で祖父が罵ってきた。普通、ここまで適性が無いのなら、退学を勧められる。
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