第2章 劣等生

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第2章 劣等生

 はっと目を覚ますと、急に喧噪が戻った。教室の一番日当たりのよい席に居るため、カーテンが風にそよいで視界の端で揺れる。低い天井に、薄汚れた床に、狭い机と堅い椅子。相変わらず居場所のないその場所は、紅(こう)鏡(けい)が望んで選んだ学校の教室だ。 竜使いになる為に卒業しなければならない地球圏保安教育学校、、通称圏教。地球圏コロニー『チルナログ』の東西に分かれて開校しているため、この学校ともう一つ分かれている。そして分かれているその先には、紅鏡の兄が居た。家ではいつも祖父や父に愛されていた兄のことだ、きっと才能を認められているのだろう。 息を一つ吐いて頬に触れて、視界に移った手を見下ろす。昼休み、昼ごはんも食べずに夢を見ていたのだと、紅鏡はその両手の大きさを思い出す。あの頃より体は大きくなり、家から出られることになり、何より、この学校に入ることができた。 「ねえ、オルフェウス君」  肩を叩かれて振り返ると、見知らぬ人間が立っていた。胸章から同じ学年だと分かるが、確実に同じクラスの人間ではないことが分かった。白い肌に銀髪金目の目を見張るほどの美少年なのだ。こんな容姿の人間がクラスに居たら確実に覚えているし、いくらこの学校に友人が居なくても彼が学年でも有名な存在だろうことはなんとなくわかった。 「こんにちは、カザハナ・葵です」  少女と見まごう美貌だが、残念ながらこの学校は女子部と男子部に教室も合同実習以外分かれている。男子用制服のズボンを穿いているなと見下ろしたのと、薄い胸に少々がっかりする。そしてその薄い胸についている紋章は、歌い手科のものだった。 「歌使い科?」  問いかけると、ええと低い声が答える。見た目に反して声は低音だ。表情も女のそれと違って男らしく少し目じりがきつめにつり上がっている。 「何の用?」 「ごめん、待ちくたびれたんだ、起こしちゃったよね」  美少年との会話に割り込む様に、耳に心地よい声が滑り込む。低音を孕みながら、少し高さも汲む玉水の様に澄んで綺麗な声だ。ふいに胸の奥から何かが囁いた。急いで顔を上げると、美少年の隣に背の高い男が立っていた。  黒い髪の毛は男なので当然短く、顔はどこという特徴が無い男だった。隣に立っている相手が悪いのかより印象が薄らぐ顔面に反して体躯は見事だ。紅鏡が立ち上がっても見上げるほど背が高く腰の位置が高い。手足も長くて大きい。
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