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ベンチの下の靴
通っている小学校の遊具置き場の奥に、三人くらいがどうにか座れる小さなベンチがある。
そこのベンチの下に置かれている靴を履くと、どんなに足の遅い子でも、たちまち学校一の俊足になれるという噂があった。
足の遅い子はみんな一度はベンチの下を覗く。でも誰一人として噂の靴を見つけた子はいない。
僕も足はかなり遅く、体育の授業や運動会でからかわれる方だ。だからそんな靴があるのならぜひ手に入れたいと思っていた。
それが思いがけず叶った。
掃除当番で帰りが遅くなったその日、僕は玄関から門へ向かわず、校庭に向かって歩いた。
今にも雨が降り出しそうな空模様のためか、いつもはこの時間でも割と人がいるのに、今日は校庭には誰もいない。
今なら誰にからかわれることもなくベンチの下を覗ける。
そう思い、僕は遊具向こうにあるベンチの所へ急いだ。
どうせ何もない。そう思うのに、期待を捨てられない気持ちでベンチの下を窺う。
そこに一足の古ぼけたスニーカーがあった。
心臓がドクンと跳ね上がる。
もしやこれが噂の靴だろうか。
反射で靴を手にした後、僕は我に返って周囲を見回した。
前に聞いたことがある。靴の噂につられてベンチの下を覗き込む子用に、わざと何でもない靴を置くいたずらをする奴がいるって。
その子が喜んで靴を手に取ったら現れ、あんな噂を信じてるのかと笑い、仲間と一緒に囃し立てるらしい。
そういう連中が近くに潜んでいるのではないか。それを案じ、僕は注意深く周りを窺ったが、どこにも人がいる様子はない。
それでも、少し離れた所から見ていないとは限らないので、僕は靴を持ったまま玄関へ向かった。
もしここで誰か出てきても、ベンチの下に靴が置かれていたから、校内に居残っている人の靴が勝手に運ばれている可能性があるので、玄関に戻しておこうとした、と言えばいい。
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