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「桜の髪飾り。お前、桜好きなんだろ?」
そう言って彼は彼女が先ほどまで書いていたスケッチを指さした。
「うん。ありがと。」
彼女は恥ずかしそうに彼からもらった髪飾りを付けてようやく笑顔に戻った。見たところあまり高価ではない。彼の手持ちのお小遣いでギリギリ買えたであろうどこにでもありそうな髪飾りだったが彼女はとても朗らかだった。
「泣き止んでくれてよかった。ごめんな。」
安心した声を出し、少年はそのまま地面にしゃがみこんだ。
「けど、君はすごいね。膝から血が出てるのに全然泣かないんだもん。痛そう。」
彼は無我夢中のあまり気にしていなかったがかなり負傷していた。しかし、同じような傷がある彼女を前にして弱音を吐くことは出来ず、強がることにした。
「俺は強いんだ。だからお前みたいにわんわん泣かないんだぞ。」
「ほんとに?」
彼女は訝しげに聞いてきた。彼ももう後には引けない。
「あぁ、ほんとうさ。なんなら、絶対泣かないって約束してやってもいいぜ。」
「なに、その変な約束。なら私も君からもらった髪飾り、絶対に無くしたり、壊したりしないって約束する。」
彼女は笑いながらそう言った。
「そっちこそ変な約束じゃねえか。」
彼も笑いながらそう言った。
そうして、
「約束な。」
「約束ね。」
二人は指切りを交わした。ここから二人の物語は始まっていく。僕もそして二人もこの日のことを生涯忘れないだろう。
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