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「はーい黒板に注目!」  ガヤガヤと煩かった教室内が、波が引いたように一気に静まり返った。 「ふふ、ありがとう。男子だけじゃつまんないから、女の子にも参加して欲しいな。最初に男の子、クジ引いてね」  ショートカットの後ろ姿がカツカツと小気味良くチョークを走らせる。  ふと廊下に目をやれば、クラス外の生徒が何人もこのイベントを野次馬に訪れていた。  一等 ……一人 手作りのチョコレート(連絡先付きかも?)  二等 ……二人 高級チョコレート  三等 ……三人 市販のチョコレート  四等 ……四人 駄菓子のチョコレート  その他、空クジなど  おおおーっ、と野太い歓声が巻き起こった。  三年二組、生徒数三十八人。彼女を除いて、三十七人。この学校は元は私立男子校だった。数年前に共学となった今でも男子生徒の数が圧倒的に多い。もう、ほぼ男子校と言っても過言ではない。  むさ苦しい学校生活の中で彼女の存在は学校のオアシス、神秘、奇跡だった。在学して籍を置いているとは言え、多忙な彼女は頻繁には登校出来ていなかった。  そんな彼女が年に一回、二月十四日に自分のクラスに置いてイベントを開催するのはもはや学校中の誰もが知ることとなっていた。  日本中の男心を鷲掴みにしている国民的美少女、時にはスーパーアイドル、時には演技派女優。その人。  マジで恋する五秒前の再来だなんて言われるほどのその人。 「全部で十個! 大体クラスの四分の一、かな?」 「真波ちゃん! 一等の連絡先……いやいや手作りチョコが欲しいよー!」 「もう何でもいいから真波ちゃんの手元にあった物が欲しい!」  やんややんやと巻き起こる声。  華野真波(かのまなみ)は少しの間それらの声に耳を傾けていたが、数十秒後には手をパンパンと叩いて再び静寂を促した。 「皆ありがと! それじゃ、クジ引いていってもらうね!」 *** 「当たんなかったわ」 「俺も……」 「俺なんて、三年連続マナちゃんと同じクラスなのに、三年目でやっと駄菓子だわ」 「てめー当たったのにワガママ言ってんじゃねえよ! 寄越せ!」  ガヤガヤガヤガヤ。  イベントはあっという間に終わったのに、もう下校して良いのに、彼女以外のクラスの殆どの人間がまだクラスに残っていた。 「や、やった! 二等だ!!」 「一口でいいからくれ、明日なんでも奢るから」
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