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 そんな喧騒において、自分のなんと冷静なことか。 (二月十四日、図書室で『拾遺和歌集』を借りること……)  空クジがあるとは聞いていたけれど、メッセージ付きのクジがあるとは聞いていなかった。思い起こせば、“空クジ など”と書いてあったような気もする。  クジについて本人に聞こうにも、とっくのとうに下校し、これからまた仕事なのだと言っていた。勿論、連絡先など知らない。  『拾遺和歌集』? 何て読むんだ? 習ったっけ?  分からないがとりあえず図書室に向かう。図書室なんて、少ししか置かれていない漫画を読みに行った程度で、殆ど縁のない場所だ。  まだイベントの余韻が残るクラスを出て、図書室に向かうと、本を読む生徒、勉強に励む生徒、ただダラダラと過ごしている生徒などが疎らに散っていた。  図書室のカウンターにいる司書の女性に、本の名前を書いたメモを見せる。 「すみません、これ、ありますか?」 「何々、『拾遺和歌集(しゅういわかしゅう)ね。ありますよ、ちょっと待っててね』  “しゅういわかしゅう”と読むのか。判明してスッキリした。少しその場で待っていると、司書の女性が件の本を持ってきた。 「はい、これ。借りていきます?」 「あ、はい」 「じゃあこの本に入っている図書カードに学年、組と名前を書いてね。あとはこの貸出カードに名前を書いて……そうそう、返却日は一週間後ね。どうぞ」  借りた本を受け取ってお礼を言う。  表紙を見ただけでも辟易する。全く読む意欲が湧かない。  その場で適当に読んで返そうかとも思ったが、“借りること”とあったし、鞄に本を突っ込んで帰路についた。 ***  家に着き、スウェットに着替えて一息つく。バレンタインとは全く関係のない元々あったチョコレートを摘んでいると、さっきの本の存在を思い出した。部屋に戻り、鞄から本を取り出す。パラパラと捲っていると、途中、小さな付箋が貼られているページに気付いた。 「何だこれ」  付箋には、“橘さんへ” とだけ書かれていた。橘……自分のことだろうか。いや、橘だけど、まさかそんな。付箋が貼られていたのは、  しのぶれど 色に出でにけり わが恋は   物や思ふと 人の問ふまで  平兼盛という人の歌だった。その和歌の隣のページに、解説と意味が載っている。 「え?」  解説を読んだはずなのに、益々意味がわからなくなった。
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