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「誰にも知られないよう秘めていた恋ですが、どうやら私の恋は、恋しているのかと人に問いかけられるくらい、顔色に出るようになってしまったようです」
読み上げられた和歌の解説に、心臓の高鳴りが抑えられない。私が話しているわけでも、私の気持ちとリンクしているわけでもないのに。
「一年と二年の時は、ただ応援してくれるクラスの子達にほんのお礼のつもりでやってた。今年は、橘さんがいたから」
ほんのりと潤んだ瞳、淡いピンク色のグロスで濡れた唇が、彼女を構成する全てが艶っぽく見える。普段クラスでは、演技で時折見せるような色っぽい雰囲気は感じさせず、元気で明るい子という印象なのに。そのギャップにもクラクラした。
同性なんて、全然興味なんてない。しかもよりにもよって、こんな男ばかりの学校で、何で。そう頭では思うのに、彼女の唇から目が離せなくなっていた。
「何で、私に」
「橘さんが、美しいから」
彼女がそう言うと、私より頭半個分小さな背がくっと伸びた。反応する間も無く、見惚れていた唇が私の唇に重なった。
「美しくて、……離れたくないの」
離れたくないといったその唇が離れた時、彼女のグロスが私の唇を濡らした。不思議と、気持ちが悪いとは思わなかった。
私が何も言えずに立ち尽くしていると、彼女は私の制服のポケットに何かを入れた。
「特別賞」
そう呟くと、彼女はもう一度背伸びして私にキスをした。私はそれを拒まなかった。唇ってとても柔らかいんだな、そういえば、キスをするのは初めてだったなとぼんやり思った。
午後の授業の開始を告げるチャイムが鳴り響いた。上の階からバタバタと足音が聞こえる。気にする風もなく、華野真波は薄く唇を開いた。
end
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