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いつからだろう。
気がついたら、
ママとパパが喧嘩しなくなって。
いつからか、あの子は家族の一員として、貧乏な日々も楽しく一緒に過ごすようになって。
「そうそう。そう言えば、あと少ししかお金がないときに、家中の小銭を皆で集めて、キャットフードを買いに自転車を遠くまで走らせたり、」
桃はクスクスと笑うと、懐しそうに微笑む。
「誰かが帰って来る時は必ず玄関まで迎えに来てくれて、」
幸せを運んで来てくれたって、家族は笑い合えるようになった。
「じゃあ...お姉ちゃんはどうして泣くの?だって、その子がお姉ちゃんたちを元気にしてくれたんでしょ?」
桃は、泣き顔で隣りの男の子に視線を返す。
「そう...とても元気にしてくれた。だけど...」
男の子は、綺麗な瞳で桃を映す。
「今朝、いつもの大好きな寝床で、お気に入りの毛布にくるまって、眠ったように天国へ行ってしまったんだ...」
本当に、大切な大好きな家族だった。
汚れてボロボロな姿だったあの子は、私たち家族に、強さを教えてくれた。
もう、二度と逢えない。
失って初めて、その重大さに気付いた私は本当に馬鹿だ。
空へ旅立つとは、もう逢えないということ。
もっと、時間を大切にすれば良かったと、後悔ばかりが浮かぶ。
「だけど...その子も」
またブランコを漕ぎ始めた男の子は、桃から視線を離し、言葉を繋げた。
「幸せだったと思うな。だから、お姉ちゃんが泣いてると、その子が悲しむと思うよ。だからー、もう泣かないでね」
そんな言葉で繋げられ、桃は溢れる涙を必死で拭った。
「お姉ちゃんたちに会えて、良かった...」
不意に顔を上げた。
ブランコから飛び降りた男の子は、いつの間にか遠くで手を振っていた。
「ぼく、もう行かなきゃ!お姉ちゃんありがとう」
「あ、待って!そう言えば君の名前聞いてなかった!」
振り返った男の子は、笑顔で大きく手を振っていた。
「ぼくの名前はちゅらだよ!」
桃は、ブランコから滑り落ち、土の上に座り込んだ。
汚れてボロボロだったあの子に、私達はちゅらと名付けた。
幸せを運んで来てくれたあの子は、とても美しい存在だったからー、
夜の帳が降りる頃ー、
星が一つ煌めいていた。
桃は呆然とその星を眺め、またいつか、ちゅらに逢えるような気がした。
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