壊れた

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壊れた

 触れられた瞬間、体に電流が流れたかと思った。  雪国での、本格的な冬を予兆する落雷のようだった。衝撃の強さに動揺する心。隠すために強い力をこめてぎゅうっと目を閉じた。  手をゆっくりと包み込まれるように握られただけで、わたしの内部は感電し、ショートした電化製品のような状態に陥っている。  触れたそこから、相手の皮膚のしっとりとした湿度が末梢から脊髄へ、そして脳髄へと響いて、眠らせていた原始的な欲求を湧き上がらせる。もっと触れたい、そう自覚する前にわたしは相手の手を握り返していた。  自分から、しっかと握り返してしまったのだ。  応える相手の指が指間を埋めるように蠢いては絡みつく。わたしからそれを求めているという事実だけで急速に体温が上昇し、循環動態が乱れる。どくどくと聞こえるこの拍動は、自分の物であると思う。けれど、もしかしたら隣で横たわるこの人の中の音なのかもしれない。同じように緊張しているなんてことはあるのだろうか。ただ金銭のために接客しているだけの相手。その人が同様の思いを抱えているのではないかと錯覚する。  相手の顔をちらと見る。視線に気づいた相手が微笑する。握る手の圧が強くなる。
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