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屋敷の大きな玄関扉を開けることに躊躇した彼は、炊事場に設えてある勝手口から出て、屋敷の門をくぐり抜けた。
カラスどもは依然としてけたたましい声で鳴き続け、羽音を響かせている。
音の発生源へ目をこらすと、鳴き飛びまわるカラスの群で影ができていた。何かを取り囲み、攻撃しているようである。
「ネズミか何かか?」
大方、小動物を見つけて食おうとしているのだろうが、こんな時間に騒がれたのでは眠るに眠れない。
マリユスはカラスたちを黙らせようと、群れの方へと歩んでいった。
その時、かすかだが確かに人のうめき声のようなものが聞こえ、彼は足を止める。
「……ぅ、あ……ぐ」
耳をすますと、はっきりと痛みと恐怖に苦しむ小さな呻きを聞きとった。
マリユスはすぐさま脱いだマントを片手に持ち、バサバサと派手な音を立てて大きく振り回しながらカラスたちへ向かっていく。
「散れ!」
マントの大きな影と屋敷の主人の怒鳴り声に、鳥たちは大仰に羽音をたてて飛び去っていった。
カラスの羽が散乱した地面にうずくまっていたのは、これまた黒い人影である。頭からフード付きのローブを纏った人影が、丸くなって小刻みに震えていた。
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