27人が本棚に入れています
本棚に追加
「おい、怪我はないか?」
駆け寄って声をかける。
フードの端から整った鼻筋と青ざめた唇が見えた。その様子から察するに、若い男のようだ。
日が暮れてから森をさまよっていたのか、ビロードのローブは水を吸って重くなり、フードや頬にかかる色素の薄い髪の先から雫が滴っている。
「こんな時間になぜこんなところにいる?」
思わず鋭くなったマリユスの声に、青年が弱々しく息を吸った。
「届け物があり、この森を抜けようとしたところ道に迷ってしまいました。あげく雨に降られ、やっと見つけたお屋敷の前でカラスにつつかれていた次第。どうかお許しください」
マリユスに向き直り深々と頭を下げる青年に、彼は手を差し出す。
「立てるか?」
青年が顔を上げ、マリユスを凝視した。マリユスもまた青年の顔を直視する。雲間から出てきた月の光に照らされたその顔はきめ細やかで美しく、瞳はとろりとなめらかな蜂蜜のように輝いていた。
「来い。そのままでは風邪をひく。届け物もできなくなるだろう」
マリユスの言葉に青年は頬を緩め、差し出された手を取る。青年の指先は氷のように冷たい。マリウスは青年の濡れた背を支え、急いで屋敷の中へ迎え入れた。
最初のコメントを投稿しよう!