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「ラジオやってみない?」
「話があるから」と、同級生を放送室の前まで連れて来たところで、そう言った。
そして、その返事は、ただ一言だった。
「嫌よ」
柵 久留美は、出会い頭にバッサリとやられた心が早くも折れそうなのを感じながら、相手を見あげた。
「ど……どうして?」
声は震えてしまった。
一方の相手は、眼鏡の奥から真っ直ぐに久留美の目を見下ろしていた。肩で切り揃えた黒髪も微動だにしていない。
「あなたが納得する理由がなければ、私は娯楽放送部に入らなければいけないのかしら」
澄んだ声で淡々と、彼女は語る。
「逆でしょう? 私が納得できる理由がない限り、私が部活に入る義務はないはずよ」
正論だった。
けれども久留美は「そうですね」と言って諦めるわけにはいかない。
「清内路さん、ラジオ……好きなんでしょ?」
「……ラジオは好きよ」
真っ直ぐ合わせられていた視線は、清内路さんの方から一瞬、逸らされた。
「でも考えてみて。ラジオに興味のある私が、入学してから1年経っているのに、部活には入っていない。そこには、それなりの経緯があると思わない? それが『やってみない?』と言われて、はいそうですかって入部すると思う?」
更に正論だった。そして、そのことに久留美は今まで気付いていなかったので、言葉を返せなかった。
「それじゃあ、もういいかしら……ごきげんよう」
清内路さんが行ってしまう。
それでは久留美は困るのだ。
「私たち、『浜松町』を目指すの!」
踏み出していた足を止めて、清内路さんは眼鏡を久留美の方へと向けた。
「うちの学校、いつの間にか毎週配信していたのかしら?」
「まだ、して……いません」
久留美は視線を少し落としながら答えた。
「結構、聴かれているの?」
「まだ、ほとんど身内しか、聴いてないと思う……」
「何人でやっているの?」
「2人……です」
答える度に視線はどんどん下がっていってしまう。
「全国を狙える内容で毎週配信をするのに、2人では間に合わないと思うわ」
ただ清内路さんは、笑ったりもしなかったし、そんなの無理だとも言わなかった。断られているはずなのに、やはりこの人を誘ったことは間違いではないと、久留美は思うようになっていった。
「だから、清内路さんに一緒にやってほしいの」
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