第1回「いとしき思い出」

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「……失言をしたくないから聞いておくけど……亡くなったのかしら?」 「あ! 違う、ごめんなさい、そうじゃないの。もちろん、今はどうしているかは分からないけど、引っ越しで離れちゃっただけ。  でも、その後、連絡が取れなくなっちゃって。  今、思うと、本当にバカだったなって思う。その子といるのが、あんまり楽しかったから、ずっと一緒にいたから……新しい学校でも、同じくらい仲が良くて大切な友達ができるんじゃないかって、思っちゃったんだよね」  廊下の窓越しに見える夕方の空には、幾つか雲が浮かんでいた。 「お母さんも、同じような友達ができるといいねって、すごく心配していて。早く安心させたいって思っちゃったりして。その子と連絡を取ることよりも、新しい学校で友達を作ることばかり考えてた。小学生の頃は自分のスマホとかも無かったし。  それで、結局というか当たり前だけど……そんな友達は、できなかった。  で、やっぱりその子しかいないんだって、分かった頃に連絡を取ろうとしたら、繋がらなくなってたんだ。向こうも引っ越したんだと思う。それまでに連絡を取ってればよかったのに」  母親同士は連絡先を交換していたが、やはり引っ越してからは連絡を取っておらず、連絡はつかないとのことだった。 「新しい場所へ行くたびに思うんだ。どうせ、ここにあの子はいないんだって」  言ってしまってから、清内路さんに失礼だったかもしれないと思った。今日一日、教科書を見せてくれたりいろいろと案内をしてくれた彼女を前に「どうせ、あの子とのような関係にはなれない」と言ってしまったともいえる。  清内路さんは「私は、そうはなれないのね」とも「また会えるといいわね」とも言わず、ただ「そう」と口にした。  だから久留美は、清内路さんの少し後ろを歩きながら、彼女の様子を気にしていた。特別教室棟を回り終えて、普通教室の方へと戻る途中の渡り廊下。ちょうど、階段を下りて来た女子生徒が、立ち止まって自分を見ていることに、気付けなかったのはそのためだった。
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