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「……私は部には入らないわ」
それなのに、返事は変わらない。
と――
「ルミちゃーーーん!」
廊下の先から久留美の姿を見つけるなり、小柄な生徒が両手を広げて一直線に走ってきた。
緩く癖の付いた長い髪が真ん中で分けられている、その額が、真っ直ぐに久留美の胸へと吸い込まれる。
「しぃちゃん!?」
いつものように抱きついてきた彼女は、こう見えても年上の3年生だ。
ぎゅ~~、とハグをしてから、しぃちゃんは顔を久留美の胸から離し、その場にいたもう一人を見あげた。
「あれ?」
「……どうも」
清内路さんは困ったような表情で、急に現れた小さな先輩を見下ろしていた。
久留美は しぃちゃんにくっつかれたまま、「同じクラスの清内路 美香さん」「部長の美麻 詩子……さん」と紹介をした。
「清内路さんに、部に入ってもらえないかなって、お願いしてたんだけど……」
「今、お断りしたところです」
そう言って改めて踵を返そうとするところに、しぃちゃんが声をかけた。
「清内路さん、ルミちゃんのお話、聴いてあげてくれないかな?」
首だけ巡らせて、清内路さんは振り返った。久留美の制服の腰に腕を回したままの しぃちゃんを、眼鏡の奥からじっと見つめていた。
「今、聴きましたけど」
「そうじゃなくて。ルミちゃんのラジオを聴いてから、返事をしてあげてくれないかな、って」
しぃちゃんも、じっと清内路さんを見あげている。
「だって、今まで娯楽放送部に入っていなかった事情って、ルミちゃんには関係ないよね? そのために断られちゃったら、それはルミちゃん自身にはどうしようもないことなんだよ?」
「あなたが……それを言いますか?」
「ごめんなさい。でも、お願い」
何のことを言っているんだろう――と久留美が考えている間に、清内路さんはため息をついて、言った。
「分かりました。柵さんのトークを聴かせてもらって、それからお断りします。……それでいいですか?」
本当にそうなったら、それはそれでショックだな――と久留美は思ったが、しぃちゃんは満面の笑みで「うん!」と答えた。
「ルミちゃん、これで門前払いじゃなくなったよ!」
「うん……門というか放送室の前から帰ろうとしていたのは、清内路さんの方だけどね……」
ともかく機会が与えられたということは、久留美は理解したのだった。
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