第4回「『浜松町』を目指すわけ」

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 もうすぐ大型連休、という4月の終わり。  放課後の放送室で、久留美はスマートフォンの画面を眺めていた。自分たちの番組が公開されている画面を見ると、何度でも満足感が湧いて来る。聴いてくれたリスナーからのお便りが届いたことも嬉しかった。 「しぃちゃん、連休中は何をやるの?」  放送室に備え付けのノートパソコンに向かっている姿に声をかけた。久留美はそう呼んでいるが、本名は美麻(みあさ) 詩子(うたこ)。小学5年生から外見が変わらないが、れっきとした上級生で、娯楽放送部の部長をしている。 「んー……」  指先を唇の下に当てて、しぃちゃんは天井の方を見てから言った。 「収録するためにここを使うなら、先生に学校を開けてもらわないとなんだよね」 「あ、そうだよね……」  学校が休みの日に部活動をする場合、先生の仕事としてはどういう扱いになるのか。久留美は詳しくは知らなかったが、連休の前の週になっていきなり計画をすることが難しいことは想像がついた。 「それに、次回に喋る内容もまだ計画してないから、まだ収録する段階じゃないしね」 「そっかぁ……」  再会したばかりの しぃちゃんと部活動をする。それ自体を久留美は楽しみにしていた。もしかすると、連休の間は会えないのだろうか。そう考えると急に寂しく思えてきた。 「だから」  しぃちゃんはニヤリ、と八重歯をのぞかせて続けた。 「収録は休み明けにして……。ルミちゃん、引っ越して来てから初めてのまとまったお休みだし、一緒にあちこち行ってみない? 番組の内容を考えながら。それ自体が喋ることのネタ集めにもなるし」  待ち合わせの間、桟橋で釣り竿を振るう。ここで何が釣れるかは分からない。釣り糸の動きよりも、皆の会話に注意は向けられているので、それでいい。 「待たせたな!」  程なくして走り寄って来る小柄な姿があった。ルミは釣り竿をしまい、そちらに向き直る。 「私も今来たばかりですわ。ごきげんよう」
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