番宣 「『浜松町』を目指します!」

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「今までは、興味のあるものといったら、ゲームでした。特にオンラインゲームで、いろんな人といろんな出会いや冒険をしてきました。それもとても楽しいですし、これからもゲームの話をすると思います」  ラジオや喋りに慣れた人のようなトークはできない。なにかの競技や芸能活動などで活躍している人の番組でもない。自分はただの趣味レベルのゲーマーで、ラジオ初心者の中学生。それはごまかしてもしょうがないことだと久留美は思った。 「ただ、ラジオは多分初めて、自分で選んで、自分でやりたいって決めたものなんです」  ゲームは好きだ。自分で選んで、とても大切なものとしてゲームに取り組んでいる人もいるだろう。ただ久留美の場合は、『ゲームだけを楽しみとしている日常』は『与えられたもの』であって、そういう毎日を送りたいと自分で思い描いたものではなかった。 「私は『浜松町』を目指します。どうしても全国に行きたいんです」  その理由がある。しぃちゃんと一緒にラジオを続けていくためには、それしかないのだ。 「先月までラジオのことを何も知りませんでした。だからもしかしたら『浜松町』にはものすごく遠いところにいるのかもしれません。全国の中学校の中で、一番遠いくらいかもしれません」  一番ではないかな……いや、本気で『浜松町』を目指す番組の中では一番遠いだろうな――考えながら、久留美は次に話したい言葉を思い付いた。 「だから、『浜松町』にたどり着いた時……私たちは一番長い道のりを走りきった番組になれると思うんです」  久留美が今、声を聴いてくれる人に伝えたいことは、そういうことだった。 「自分の選んだことだから、道が長いことは、それだけ楽しみもたくさんあるということです」  他の番組よりも絶対に面白い――そんなことを言う自信はない。そうなりたいとは思うけれど、他の番組だって『浜松町』へ向かって走っているはずだから。 「一緒に、行きませんか? どこよりも長くて、その分どこよりも楽しめる道のりを、選んでみませんか?」  だから、伝えたいことは「一緒に走ってほしい」ということなのだ。 「もちろん、聴いてるだけでも楽しんでもらえるような番組を、作っていきたいと思います。これからの銀嶺中学校 娯楽放送部の番組を、楽しみにしていてください」  一気に喋りきった。  そういえば時間も決めていなかったし、計ってもいなかった。でも、もう今もっているものは出し切った気分だった。  ガラスの向こうの しぃちゃんを見ると、笑顔で丸印の動作をしてくれた。
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