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「ルミちゃん、お疲れ様ー!」
収録ブースから出ると、しぃちゃんが手を握りに来てくれた。
清内路さんは、いつも涼し気な表情のその口元を、少しだけ緩めているように思えた。
「あなたのトークは、興味深かったわ。柵さん、あなたを、その……応援したくなったわよ」
照れたように幾度か視線を外しながらそう言ったので、久留美は「それじゃあ!」と目を輝かせた。
「でも、同時に教えられたわ。あなたたちと一緒に番組をつくるのは、自分自身も一緒に『浜松町』へ行きたいっていう人であるべきよ」
清内路さんは首を振った。
「柵さんを応援したいっていう、ただそれだけのためじゃ……それは他人のためであって、自分のためじゃない。それではきっと『浜松町』には届かない。他人のために、ただそれだけのために、私はそんなに頑張れる人間ではないの」
「……そっかぁ」
久留美は肩を落としたが、表情は緩んでしまった。伝えたいことは伝えた――そういう満足感はあったので、その結果であれば、今はきっとこれが最良なのだと感じたのだ。
「でも、リスナーとして応援させてちょうだい」
「わかった。ありがとう、清内路さん」
久留美が手を差し出すと、少し躊躇ってから、清内路さんは握手に応じてくれた。
「あ、でもね、もう少しだけ聴いてほしいことがあるんだけど……」
「何かしら?」
「あのね、『浜松町』に行きたい理由は、ラジオに興味があって、一番を目指したいから――というわけじゃないの」
そう、しぃちゃんと久留美がラジオに興味があるのは間違いない。
けれど、あえてそこで全国大会を目指さなければならないのは……これからも2人が一緒にいるために、それが必要になったからだった。そして、それはとても私的な都合なので、ここまで清内路さんには話せなかった。「私たち2人の都合のために、学生ラジオで全国大会に行くだけの時間と労力をください」とは、言えなかったのだ。
ただ、清内路さんがはっきりと「他人のために頑張るつもりはない」と言ってくれる人だったため、正直に話しておきたいと、その上で応援してもらえるならそうしてほしいと、この時にはそう思うようになっていた。
「黙っていて、ごめんなさい」
そうして久留美は話し始めた。『浜松町』を目指す、そのわけを。
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