第1回「いとしき思い出」

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 クラスは7組だった。大きな学校であることは知っていたが、8組まであるのを見てさすがに驚いた。 「柵 久留美です。小学生の頃にしばらく、この近くに住んでいました。川の向こうなので別の学区だと思いますが……」  パッと見た限りでは、やはり見覚えのある顔はない。 「よろしくお願いします」  礼。義務的な拍手。  そして担任から、自分の席が示される。窓際から2列目の一番後ろ。転校生がどうしてそういう位置なのかはよく分からなかったが、先週の内に席替えをしたのだろうと納得した。 「教科書が届くまでは、清内路(せいないじ)さんが見せてあげて。あと、移動教室の案内とか……えーっと、いろいろお願い」  担任の指示は"ふわっと"したものだったが、左隣――つまり窓側の席に座っていた眼鏡の同級生は、落ち着いた声で「はい」と答えた。  始業式でもないただの月曜日だったので、当たり前だが普通に授業を受ける。先週は「進級お祝いテスト」をしたということで、多くの教科が今年度の初めての本格的な授業であったため、遅れてクラスに入った久留美も大きく戸惑うことはなかった。  教科担任は彼女の名前を「柵久(さくひさ)留美(るみ)」と発音した。 「あの、すみません……(しがらみ)久留美(くるみ)です」  それも、転校する度に経験する、いつものことだった。  授業の合間の休み時間、隣の席の清内路さんは「分からないことがあったら、きいてちょうだい」と言うと、文庫本を開いて読み始めた。  肩の辺りで切り揃えている真っ黒な髪が、サラリと横顔にかかる様子が"絵になって"いる。  すぐに、数人の同級生たちが久留美の席を取り囲む。「どこから来たの?」とか「部活やってた?」で始まり、チャイムの音と「じゃあ、よろしくねー」で終わる、お決まりの儀式だった。  転校初日の同級生とのやりとり。その集団における人間関係が決まるかもしれない場面。しかし久留美はあまり緊張するでもなく無難な回答を返しながら、ただ心の中で思っていた。  ――こんなことより、早く帰ってゲームにログインしたい。
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