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番宣 「『浜松町』を目指します!」
ラジオ番組のフリートークなんて、一人でやったことがなかった。つい先日まで、マイクを前にしたことなんてなかったのだから。
それでも、何か喋らなければならない。これからの数分間で口にする言葉が、これからの道を決めてしまう。
全国の中高生の憧れの舞台、それ以外の世代からも注目されている青春の代名詞――ラジオ番組の聖地と言われる『浜松町』。そこへ向かって一歩を踏み出さなくてはならない。そして、何としても勝ち抜いて、たどり着かなければならない。
自分のセーラー服のタイに触れるだけで、心臓が激しく音を立てていることに気付かされる。髪は編んで頭の後ろにくるりとまとめてあるのだが、その下のうなじにもスッ――と汗が伝っていくのを感じた。
防音の分厚いガラスの向こうに見える調整室には、女子生徒が2人。機器を前に座っている少女の手の平が放送室の天井を向き、収録ブースに入っている彼女に向かって差し出された。話し始めて、という意味の『キュー』の合図。
「こんにちは。銀嶺中学校のルミです」
見よう見真似で、マイクに向かって挨拶をしてみる。
「ええと……」
けれども、柵 久留美の口からは次の言葉が出て来なかった。
『浜松町』へ行けなければ、大切な人と離れ離れになってしまうというのに。
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